2007年10月15日
史記は有名ですよね
『史記』(しき)は、中国前漢の武帝の時代に司馬遷によって編纂された中国の歴史書である。正史の第一に数えられる。二十四史の一つ。計52万6千5百字。著者自身が名付けた書名は『太史公書』(たいしこうしょ)であるが、後世に『史記』と呼ばれるようになるとこれが一般的な書名とされるようになった。「本紀」12巻、「表」10巻、「書」8巻、「世家」30巻、「列伝」70巻から成る紀伝体の歴史書で、叙述範囲は伝説上の五帝の一人黄帝から前漢の武帝までである。 このような記述の仕方は、中国の歴史書、わけても正史記述の雛形となっている。
日本でも古くから読まれており、元号の出典として12回採用されている。
『史記』のような歴史書を作成する構想は、司馬遷の父司馬談が既に持っていた。しかし、司馬談は自らの歴史書を完成させる前に憤死した。司馬遷は父の遺言を受けて『史記』の作成を継続する。
紀元前99年に司馬遷は、匈奴に投降した友人の李陵を弁護したゆえに武帝の怒りを買い、獄につながれ、翌年に宮刑に処せられる。この際、獄中にて、古代の偉人の生きかたを省みて、自分もしっかりとした歴史書を作り上げようと決意した。紀元前97年に出獄後は、執筆に専念する。結果紀元前91年頃に『史記』が成立した。『史記』は司馬遷の娘に託され、武帝の逆鱗に触れるような記述がある為に隠されることになり、宣帝の代になり司馬遷の孫の楊惲が広めたという。
唐代に司馬貞が『史記索隠』という注釈をあらわした際に、司馬遷が叙述をしなかった五帝時代のひとつ前の時代である三皇時代について書いた「三皇本紀」と「序」が加えられた。これについて、司馬遷が三皇について触れなかったのは、三皇を伝説の存在として看做していたからであって、司馬貞がこれを付け加えたのは一種の改竄ではないかという批判する学者もいる。
『史記』全体に貫かれている思想は「天道是か非か」であると言われている。天の道、すなわちこの世に行われるべき正しき道が本当に存在しているのかどうかということである。例えば列伝の最初である「伯夷列伝」で、正しい義人であるはずの伯夷と叔斉が餓死という惨めな死を遂げることに対しての疑問である。これは司馬遷自身が、李陵を弁護したと言う正しい行いをしておきながら宮刑と言う屈辱的な刑罰を受けたことに対しての悲痛な思いが根底にあると思われる。
司馬遷が『史記』を執筆した時代は、武帝により儒教が国教化されつつあった時代である。そのため、孔子については、諸侯でないものの、世家の中に書かれている。しかしながら、『史記』の記述は儒教一辺倒にならず他の思想も取り入れている(司馬遷自身は道家に最も好意的だとも言われている)。これは、事実の追求という史書編纂の目的から生まれたことであろう。反秦勢力の名目上の領袖であった義帝に本紀を立てず、当時の実質的な支配者であった項羽に本紀を立てていることや、呂后の傀儡であった恵帝を本紀から外し「呂后本紀」を立てていることも、こうした姿勢の現れと考えられる。
叙述の対象は王侯が中心であるものの、民間の人物を取り上げた「遊侠列伝」や「貨殖列伝」、暗殺者の伝記である「刺客列伝」など、権力から距離を置いた人物についての記述も多い。また、武帝の外戚の間での醜い争いを描いた「魏其武安侯列伝」や、男色やおべっかで富貴を得た者たちの「佞幸列伝」など、安易な英雄中心の歴史観に偏らない多様な視点も保たれている。
さらに、漢の宿敵であった匈奴を始めとする周辺異民族に対しても、当時の漢の価値観から論評することをあまりせず、基本的に事実のみを淡々と書くという態度で臨んでいる。一方で、高祖・劉邦が匈奴との戦いで惨敗し厳しい条件での講和を余儀なくされたこと、その後、武帝が治世の初期に匈奴の単于を騙し討ちにしようとしたことから匈奴との関係が決定的に悪化したこと、同じく武帝の時代に、朝鮮に派遣された使者が自分を送るためについて来た朝鮮の副王を手柄欲しさに殺害した事で朝鮮との戦いが始まったことなど、当時の漢にとって不都合な事実も隠さずに記述されている。
しかし儒教が完全に主導権を握った後は、司馬遷のこうした姿勢はしばしば批判の対象とされた。例えば班彪は『漢書』の中で、司馬遷が遊侠や貨殖といった人物を史書で取り上げたことや儒教を軽視して道家に近い立場をとったことを批判し、『文心雕龍』では女性を本紀に立てたことが非難されている。『史記』を一種の悪書と見なすこうした視点はかなり早くからあったらしく、例えば『漢書』の「宣元六王伝」には、前漢の成帝の時代に楚王・劉宇が来朝して『太史公書』を求めたものの、「『太史公書』には昔の合従連衡や権謀術数のことが詳しく書かれており、諸侯に読ませるべき本ではない」という意見が出て、結局楚王の申し出は許可されなかったことが記されている。
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